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BRUTUS meets Be.Okinawa
BRUTUS meets Be.Okinawa

琉球王朝時代から受け継がれた味噌作りと、その味噌で作る沖縄味噌汁の滋味深さ。

琉球王国末期の創業以来、約165年間にわたり製法と味を守ってきた<玉那覇(たまなは)味噌醤油>の「王朝みそ」。料理研究家の土井善晴さんが毎朝飲む味噌汁もこの味噌を使っているそうだ。<味噌めしや まるたま>はその美味しさを知ってもらいたいと、4代目を祖母に持つ中西武久さんが開いた店。そんな中西さんに首里の味噌蔵を案内してもらい、沖縄味噌汁のレシピをうかがった。

photo: G-KEN / text: Katsuyuki Mieda
琉球王国の士族の屋敷跡に建つ<玉那覇味噌醤油>。城下町の名残と老舗の伝統を感じさせる門構え。曜日や時間を限定して店頭販売も行うが、味噌蔵内の見学は不可。
敷地を囲む琉球石灰岩の石垣は、そのまま味噌蔵の外壁も兼ねている。この石垣に空いた無数の小さな穴が風を通すことで、温度や湿度を保ち、麹の発酵や味噌の醸造を助ける。
敷地内の庭園に残る井戸。かつてはこの水を使って味噌や醤油を作っていた。琉球石灰岩の台地上にある首里は湧き水が豊富で、これを利用した泡盛製造や紅型作りも発展した。
建物は沖縄戦で倒壊したが、火災を免れた木材を柱や梁に使って戦後再建。そのため創業時からの麹菌が今も味噌蔵の天井などに息づく。これが「王朝みそ」の美味しさの要だ。

歴史と麹菌が息づく味噌蔵

かつての琉球王国の王城・首里城。再建工事が進むその城跡からほど近い、城下町の面影を残す町角に、<玉那覇味噌醤油>の味噌蔵は佇む。創業は約165年前の安政年間(1855~60年)。琉球最後の国王・尚泰(しょうたい)の時代で、王家御用達の醤油と味噌の醸造所だった。そして琉球処分後の明治初期に2代目が上級士族の屋敷跡を譲り受け、今の地に工場を建てた。周囲を囲む琉球石灰岩の立派な石垣が士族屋敷の風格を伝える。
「この庭も士族屋敷の名残です。かつてはこの井戸の水を味噌醤油作りにも使っていました」と、石垣内の厳かな亜熱帯庭園を見せてくれたのは中西武久さん。那覇市泉崎の<味噌めしや まるたま>(以下<まるたま>)で「王朝みそ」を使った料理を提供する。<玉那覇味噌醤油>は中西さんの母の実家で、祖母の玉那覇久子さんは4代目に当たる。
中西さんの案内で工場内に入った瞬間、発酵食品独特の複雑な匂いが鼻孔を刺激する。ほの暗い木造の工場兼味噌蔵は、戦後すぐに3代目によって再建された築80年近いもの。しかし何やらそれ以上の重みを感じる。
「沖縄戦当時、日本軍の司令部があった首里は、米軍によって焼け野原にされました。ここの工場も煙突があったため狙われたのですが、倒壊はしたものの何とか火災は免れました。そのため3代目が柱や梁を敷地内のガマ(洞窟)に保存。戦後、その柱や梁を使って工場を再建したのです。だから今も明治時代からの柱や梁が残っているし、そこに棲み着いていた創業当時の麹菌が生き続けています。ここが王朝時代の味をずっと守って来られたのはこの麹菌のおかげです」

今も変わらぬ無添加・天然醸造の味噌作り

麹を作る麹室(こうじむろ)。蒸した米や麦に黄麹菌の種麹を加え、33~34℃の温度で2~3日発酵させて米麹、麦麹を作る。室内は発酵時に発する熱で低温サウナのよう。
出来上がった米麹。このように表面が黄色になるのがいい状態の麹で、沖縄では金麹(チンコウジ)と呼ばれる。口に入れると、味わったことのない上品な甘さが広がった。
米麹を粉砕したものに島マース(沖縄産の塩)を加える「塩切り」の作業。これによって麹の発酵を抑える。このあと、麹と蒸した大豆を混ぜ合わせ、木製樽に入れて貯蔵する。
戦前から補修して使う木製樽が並ぶ貯蔵庫。味噌はこの樽の中で醸造。数ヵ月かけて熟成させる。社名が示す通り、約15年前までは醤油も製造。2階部分にはその麹室が残る。

「『王朝みそ』の作り方は、一部機械を使うところもありますが、基本的に昔から変わっていません。材料も米、島マース(沖縄産の塩)、国産大豆のみです。もちろん無添加での天然醸造。麹作りから自家製で行っているのは、沖縄ではここだけです」
中西さんが麹作りの場である麹室(こうじむろ)を見せてくれた。中に入ると低温サウナのような熱気と芳ばしい匂いに包まれた。
「麹が発酵する時に発する熱です。麹室は33~34℃を保つといい状態の麹ができます。冬はストーブを焚きますが、夏は意外と涼しい。蔵の外壁になっている石垣に無数の穴が空いていて風を通してくれるんです。麹作り、熟成時も含め、石垣の存在は重要です」
米麹作りは、蒸した米に黄麹菌の種麹を加え、様子を見てひっくり返しながら2~3日発酵させる。この日はちょうど米麹が完成し、麹室から出して塩を加える「塩切り」という工程が行われていた。
「このように表面が黄色になった金麹(チンコウジ)と呼ばれる状態が上等な麹です」
中西さんに勧められ、米麹を口に入れると上品な甘さが広がり、まるで上菓子のよう。
塩切りによって発酵を抑えた麹は、蒸した国産大豆と混ぜ合わせ、戦前から補修して使い続けている木製樽で貯蔵する。ここまでの工程は週単位で行われ、毎週約1トンを仕込む。日本本土では味噌の仕込みは通常、冬のみ。通年で仕込めるのは、高温多湿で年間の気温差が小さく、発酵や醸造に適した沖縄の亜熱帯気候だからこそ。
「その後は、樽の中で夏場なら2~3ヵ月熟成させれば、まろやかでコクのある天然醸造の味噌になります。日本本土での天然醸造は2年、3年とかかりますから、沖縄は本当に味噌作りに適した環境だと思います」
できた「王朝みそ」をなめさせてもらった。力強い味噌のコクに、出汁が入っているような旨味もあり、そのまま酒のアテになる。

風土が作る味を守り、広める

熟成を終えて樽から出し、機械で濾された、できたて「王朝みそ」。このあとパックに詰め、出荷される。「王朝みそ」は米麹を使い、国産大豆のみを使用した味噌の商品名だ。
他には外国産大豆使用の「首里みそ」、米麹と麦麹を合わせた「特選みそ」、ウコン入りの「うっちんみそ」を製造。パック内でも醸造が進むため、蓋には呼吸穴を開けている。
6代目を継いだ大城由美さん。「戦前は味噌は各家庭で作るものだったので、商品はむしろ醤油がメイン。味噌を主力にしたのは、大阪帝国大学で醸造を学んだ3代目からです」
1936年頃撮影の玉那覇家の写真。後列中央の男性が3代目の有宏さん。有宏さんの前がその娘で4代目の久子さん。久子さんの膝に乗るのが大城さんの父で5代目の有紀さん。

現在<玉那覇味噌醤油>の味を守るのは、6代目の大城由美さん。以前から経営の実務を担ってきたが、最近正式に5代目の父・玉那覇有紀(ありのり)さんから継承した。中西さんにとっては従姉に当たる。
「よくここまで続けて来られたなぁ、というのが実感です」と大城さんは振り返る。沖縄の味噌作りは1972年の日本復帰を機に内地のメーカーが市場に進出。価格競争についていけず、ほとんどの味噌蔵が廃業した。
「続けられたのは、うちの味の根強いファンがいたおかげです。ようやくここ数年、発酵文化や和食の良さが見直され、うちの安心安全で手間暇かけた味噌作りが、多くの消費者に刺さるようになってきた気がします」
<玉那覇味噌醤油>では「王朝みそ」以外にも、外国産大豆を使った「首里みそ」、米麹と麦麹で仕込む合わせ味噌などを作る。いずれも自家製麹、無添加、天然醸造は変わらない。主力は、値段が手頃で業務用や県内需要の高い「首里みそ」だが、県外からの取り寄せでは「王朝みそ」が圧倒的人気だ。
「沖縄で『味クーター』と呼ばれる、力強いけど優しい味が、本土の味噌と違うようです。その違いの理由をよく聞かれるのですが、こっちが知りたいぐらい(笑)。沖縄の気候、首里という土地、この味噌蔵……風土が作ってくれている味としか言えません」
そんな「王朝みそ」の美味しさを広める役割を果たしたのが中西さん。彼は祖母の味噌の味を広めたいと2005年に東京から沖縄へ移住し、ECショップを立ち上げる。そして祖母が亡くなる直前の16年、「王朝みそ」を使った料理を提供するアンテナショップ<まるたま>をオープン。料理研究家の土井善晴さんが「王朝みそ」を知るのも、<まるたま>で沖縄味噌汁を食べたのがきっかけだ。
「メニューにはどれも味噌を使っていますが、中には隠し味やコクを出すのに使い、味噌とはわからないものもあります。また発酵食品どうしは相性がいいので、チーズなどと合わせ、味噌を使った洋食も提案しています」

「王朝みそ」で作る沖縄味噌汁の滋味

具沢山の沖縄味噌汁をメインにした、朝限定の「まるたま御膳」。納豆、肉味噌、サラダ、小鉢料理などが付き、ご飯は白米か玄米が選べる。体が喜ぶ朝ごはんだ。1,450円。
<まるたま>の「紅豚味噌しょうが焼き定食」。味噌汁、小鉢料理などが付いて、朝・昼1,300円、夜1,600円。定食類のご飯は、朝は大盛り無料、昼・夜はおかわり無料。
しょうが焼きを調理する<まるたま>店主の中西武久さん。祖母(4代目・久子さん)の味噌への思いを継ぐため、<玉那覇味噌販売>を設立。2016年に<まるたま>を開店。
那覇バスターミナルからも近い<まるたま>。宮古島に姉妹店がある。中西さんは「みそソムリエ」の資格も持ち、味噌の使い方を広めるため、レシピも積極的に公開している。

沖縄県庁近くにある<まるたま>の店内は、味噌蔵の雰囲気を伝えつつもモダンな印象。定番の「王朝みそ」の沖縄味噌汁をいただく。沖縄の味噌汁は定食の添え物ではなく、丼に入った主役のおかず。島豆腐、豚肉、青菜、卵などが入り、具沢山が特徴だ。さっそく口にすると、味噌独特の深い香りとコクが満ち、紅豚(べにぶた)やしめじなどから出た優しい旨味が口福(こうふく)をもたらす。滋味深いとはまさにこの味を言うのだろう。
「味噌汁は一度作ってから冷ましておくと、具材の出汁が出て味に深みが増します」と中西さん。続いてこれも人気メニューの紅豚味噌しょうが焼きを味わう。肉の旨味と味噌×しょうがのハーモニーが絶品だ。
「レシピで醤油大さじ1とあったら、それを『王朝みそ』大さじ1に変えると、いろんな料理に活用できます」とのこと。
「今後も味噌の使い方を広めていきたい」という中西さんに、その2品のレシピを教えていただいた。この機会にぜひ、沖縄の風土が生んだ味噌の滋味をご賞味あれ!

沖縄味噌汁

<材料2人分>
・出汁……………………………800g
・グーヤ(豚のウデ肉)………60g ※15㎜角切り(ロースなどでも可)
・島豆腐…………………………60g ※木綿豆腐でも可
・しめじ…………………………36g ※1/3パック程度
・王朝みそ………………………75g
・青菜……………………………適量
・卵………………………………2個

<作り方>
1:出汁を取り、肉と島豆腐を入れてからひと煮立ちさせ、アクをとる。
2:しめじを入れてから味噌を溶き入れ、ひと煮立ちさせて火を止める。
3:一度冷ましておいてから温め直し、青菜と卵を入れる。 ※卵は好みの硬さで

豚の味噌しょうが焼き

<材料2人分>
豚肩ロース(3㎜)…………200g ※バラ肉、肩ロース、ロースなどでも可
玉ねぎ……………………中1/2個
王朝みそ…………………大さじ1.5(約22g)
みりん……………………大さじ1(約15g)
料理酒……………………大さじ1(約15g)
しょうが…………………小さじ1(約5g) ※生のものをすりおろし(市販のおろししょうがでも可)
にんにく…………………小さじ2/3(約3g) ※生のものをすりおろし(市販のおろしにんにくでも可)

<作り方>
1:肉・玉ねぎ以外の材料をボールなどで混ぜ、タレを作る。
2:フライパンに油をひき、5㎜程の厚さに切った玉ねぎを水を加えながらしんなりする程度に炒めて取り出す。
3:肉をフライパンに重ならないように並べて焼き、少し焼き目が付いたらひっくり返し、玉ねぎとタレを入れて絡めるように焼く。
4:タレが少し硬い場合は水を加え、焼き過ぎない程度で火を止める。

INFORMATION

玉那覇味噌醤油

住所:沖縄県那覇市首里大中町1-41
営:13:30〜15:30
休:水曜、土曜、日曜(休業日は当面の間、変更の可能性あり)
電話:098-884-1972
オンラインショップ:https://www.tamanahamiso.co.jp
Instagram:https://www.instagram.com/tamanaha_miso/

味噌めしや まるたま

味噌めしや まるたま
住所:沖縄県那覇市泉崎2-4-3 1F
営:朝 7:30~10:00、昼 10:00~14:30、夜 17:00~21:30 ※朝・昼・夜でメニューが異なります
休:日曜、第2・第4木曜
電話:098-831-7656
HP:https://marutama-miso.com
Instagram:https://www.instagram.com/marutamamiso/

んまむぬ ひもの食堂 まるたま

住所:沖縄県宮古島市平良久貝721-16 GLANZ白金ビル 2-B
営:8:00~20:00
休:水曜
電話:090-2635-0157
Instagram:https://www.instagram.com/marutama_himono/

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