お祭りのような、運動会のような。沖縄の人たちが愛する「ハーリー」って知ってる?
毎年、旧暦5月4日(ユッカヌヒー)のころになると沖縄県の各地で鐘が鳴り、勇ましいハーリー競走が行われる。航海の安全や豊漁を祈念する海に囲まれた島だからこその文化とも言えるハーリー。どのように沖縄の人々に親しまれているのか、見に行ってきた。
photo: G-KEN / text: Masayuki Sesokoハーリーってなに?
ハーリーとは旧暦5月4日(ユッカヌヒー)のころや、旧暦のお盆前後の海神祭(うんじゃみ)などの行事のときに開催される船のレースのこと。爬龍船(はりゅうせん)という龍の装飾がされた船や、サバニという沖縄の伝統的な小型漁船を使って行われる。その歴史は古く、およそ600年前に豊見城城主(現在の沖縄本島南部、豊見城市)の「汪応祖(わん おうそ)」が、留学先の中国で見たものを真似て、漫湖に船を浮かべて遊んだのが発祥とされている。
端に座った「鐘打ち」がならす鐘のリズムに合わせ、2列に並んで乗船した漕ぎ手たちが、息を合わせて「エーク」(櫂)で力強く漕いでいく。学生や青年団、企業など様々なチームで競い合うだけでなく、伝統的な衣装に身を包み、航海の安全や豊漁を祈願して行われる「御願パーリー」や、レースの途中でわざと転覆させ、泳ぎながら船を起こして再びゴールを目指す「転覆ハーリー」などがあり、南国の強い日差しを受けてキラキラと輝く海面を滑るようにして進むその風景は、沖縄に欠かせない夏の風物詩となっている。
県内各地で開催されているハーリー
ハーリーシーズンの先陣を切るのは毎年GWに開催される「那覇ハーリー」。2024年に第50回が開催された那覇ハーリーは、数あるハーリー大会の中でも最大規模のもの。実に3日間かけて開催され、中学生から地域の団体による競漕、体験乗船、陸上でも様々な飲食店の出店やステージイベントが開催され、3日間で16万人以上が訪れた。
漁師町として有名な糸満市では、旧暦5月4日に「糸満ハーレー」が開催される。漁師町らしくサバニを用い、大漁旗もはためく中で御願パーレーに青年団ハーレー、クンヌカセー(転覆競漕)が開催され、最後に各ムラの優れた漕ぎ手を集めたレース「アガイスーブ」が行われる。那覇ハーリーに比べると小規模で文化や歴史を感じやすい雰囲気に思われる。
「ハーレー鐘が鳴ると梅雨が明ける」と言われ、沖縄の夏本番がやってくる。その後も離島を含めた県内各地で大小の規模もさまざまに、夏の終わり頃までハーリーは開催される。
地域の運動会みたいな名護ハーリー
8月4日、「第46回名護市長杯争奪 全島ハーリー大会」(以下 名護ハーリー)が開催されたので、名護漁港まで観戦にいってきた。なんでも名護ハーリーは「ハーリー甲子園」とも呼ばれ、チーム参加数では県内最多。8時30分の開始から18時の終了まで、女子17チーム、男子143チームによるレースが次々と開催される。
ハーリーの会場にはたいてい露天商やキッチンカーなどが軒を連ね、ちょっとしたゲームなんかもできて子どもたちも楽しめる雰囲気に。各チームはそれぞれにテントの下でバーベキューをしたりしながら自分たちの出番を待つ。仲間や知り合いの出番があれば大きな声で応援し、家族や仲間たちと食べ物を食べながらゆんたく(おしゃべり)をして過ごす。どこか地域の運動会のような、ほのぼのとした雰囲気も。
塩屋湾のウンガミのこと
沖縄本島北部、やんばる(山原)という自然豊かな地域に「塩屋湾」がある。ここでは毎年旧盆後の亥の日になると重要無形民族文化財に指定されている「ウンガミ」というお祭りが開催される。「ウンガミ」とは”海神”のことで、ノロ(琉球神道における女性祭祀)が神を招き、豊漁や無病息災を祈る。神事の間に「御願バーリー」が行われるが、そのときに村の女性たちが藁鉢巻に藁帯姿で腰元まで海に浸かり、太鼓を叩いてハーリーを迎えるという、ほかでは見られない風景を見ることができる。その様子はとても荘厳で、ハーリーという風習がこの地で大切に守り、続けられてきたことを感じさせてくれる。
ウチナンチュがハーリーを愛するわけ
地域に根ざしたものや、神事として行われるもの、イベント性の高いものなど、ハーリーといっても、開催されるものそれぞれで特色が異なる。企業が社内の同僚たちとチームを結成して参加していたり、知人のチームに誘われてみたり。沖縄で暮らしているとハーリーそのものを身近に感じる機会は多いように感じられる。
「沖縄の人は泳がない」なんて言われたりもするように、実は沖縄の人ってビーチで海に入って遊ぶことが少ない。だからこそハーリーは、海のそばで暮らし、その恵みに生かされている沖縄の人たちなりの、海との付き合い方のひとつなのではないだろうか。
沖縄への旅程に、ぜひハーリー観戦を加えてみてほしい。そこには沖縄の文化や歴史、暮らす人々の日常の雰囲気や海を愛する心が満ちていて、さまざまな沖縄の表情を感じることができるから。
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