
本島からレンタカーで渡れる、離島のちょっといい話
沖縄本島から車で行ける離島があるのをご存知だろうか。その数なんと12島!車であっという間に渡ったその先には、本島とは違うそれぞれの個性的な魅力がある。古き良き沖縄の風景や文化、美しい大自然が癒してくれる。その中でも特徴的な3つの島をオススメしたい。
photo: Makoto Nakasone / text: Michiko Nozaki

琉球神話の言い伝えを身近に感じられる、ロマン溢れる「恋島」
那覇から車で90分北上し今帰仁村(なきじんそん)まで来ると、窓の外の緑色の濃淡が徐々に変化していく。青々と生い茂る木々を横目に、突然広がるエメラルドグリーンの海。旅人をいざなうかのように細長い古宇利大橋が島へと続く。
古宇利島はその昔「恋島(こいじま)」とも呼ばれていたことから、名の通り縁結びや子宝安産を祈願しに行く人々が多い。琉球神話において人類発祥の地とされるこの島のシラサ岬に男女の人間を降ろしたとされ、まさにアダムとイブ沖縄版の壮大な物語が言い伝えられている。男女のウミナイとウミキィが人類の始まり、つまり琉球人の先祖として繁栄していったとされる。二人が暮らしたと言われる「始まりの洞窟」は古宇利大橋を渡ってすぐ手前の「チグヌ浜」にあり、パワースポットとして日頃から大切にされている神聖なる場所。祠や香炉があり、500年以上続くと言われている伝統行事である海神祭(ウンジャミ)の際は島の女性達が豊漁や島民の健康を祈願する祭祀も行われる。
古宇利島が恋の島と言われるもう一つの所以は、島に入って反対側に位置する「ハートロック」の存在。気が遠くなるような年月をかけて波に浸食された2つの岩が重なり、ハートのように見える自然の造形物は恋島の象徴とも言える。カップルで訪れるとご利益があるとか。周りの水は透明度が非常に高く、ハートロックのある「ティーヌ浜」のすぐ近くにはシュノーケルスポットで人気な「トケイ浜」がある。
天ぷらと猫とハーリーと。温かい島民の日常にお邪魔する。
どこか懐かしさを感じる南城市の最南部「奥武島(おうじま)」。那覇から40分という離島の中でも比較的足を運びやすい奥武島は天ぷらと猫で有名だ。島自体は一周1.7kmと十分徒歩でも楽しめるサイズ感だが、天ぷら専門店だけで3軒。猫に至っては数えきれないほど見かける。ほがらかな島民の優しさや、ぽかぽかの光を浴びてまどろんでいる猫を見るだけで、どこか遠くの離島までやってきた気分になる。
ソウルフードのウチナー天ぷらは食事としてはもちろん、おやつとして食べる人も多い。生地が分厚くふっくらモチモチとしていて下味がついているため、何もつけずにそのままガブリといけるのが特徴だ。「中本鮮魚てんぷら店」は奥武海道を抜けて目の前に現れるいわば島の顔。地元の食材を使った旬の鮮魚の天ぷら、たっぷりもずくの天ぷら、シリシリーした人参がほのかに甘いかき揚げなど種類も豊富。おやつにホクホクの天ぷらを頬張っていると、自然と笑顔が溢れてくる。他にも「大城天ぷら店」や「てるちゃん天ぷら」など、全店制覇してみるのもオススメだ。
いくつも粛然たる御嶽が点在する奥武島。海神様が祀られている竜宮神の拝所(うがんじゅ)も徒歩圏内にあり、波音しか聞こえない静寂に手を合わせると心が安らぐのが分かる。
奥武島といえば沖縄版こどもの日と呼ばれるユッカヌヒー(旧歴5月4日)に豊漁や航海安全を祈願する伝統行事「海神祭」で行われるハーリー大会が有名だ。海人(うみんちゅ)による伝統漁船「サバニ」の競漕は圧巻の迫力。島のサバニ造船は代々継承した職人の手作業によるもの。木の香りが充満する作業場には、丁寧に連なる竹くぎが美しいハーリーが完成を待っていた。漁港では実際使用されているサバニが置いてあるので近くにいる人にひと声かけて、見せてもらうといい。
東洋のキーウエスト?エメラルドグリーンの海中道路にまつわる物語

うるま市にある勝連半島の先から伸びる、その名も海中道路。全長4.75kmの多くが浅瀬を埋め立てた土手道路で、一部が橋や水路という珍しい作り。両サイドにほぼ目線の高さの金武湾を眺めながらドライブができるシンボリックな道路だ。フロリダのキーウェスト気分で車を走らせるだけでも、それ自体が観光になるのだが、本島と平安座島を結ぶちょうど中間地点あたりは、「海の駅あやはし館」があり、無料駐車場に停めてビーチに降りることができる。建物内2階にあるうるま市立「海の文化資料館」の常設展時「海中道路の歴史」では、想像だにしないドラマを知ることになった。
この道路が開通したのは1972年。それまでは干潮時には陸続きになる干潟を、平安座島の住人たちは歩いて渡ったり、海上トラックが人や荷物を運搬していたという。長年の「しまちゃび(離島苦)」に苦しんだ島民たちの間で50年代になると道路建設の機運が高まり、子どもからお年寄りまでが総出で、バケツやザルで石を運んで道路作りに励んだとか。それでも、台風が来るたびに作りかけの道がすぐに流されたり、不幸な事故などが重なったという。
そんな中、米企業による石油基地建設の話が浮上し、急ピッチで工事が進行。71年に着工からわずか1ヶ月で悲願の道が繋がり、村に寄贈されたという。文化資料館には他にも企画展示や体験学習もあり、歴史だけではなく、民俗学的資料や沖縄の自然科学に関する展示もあり、見応えが十分。大人も子供も楽しむことができる。

平安座島の先には、浜比嘉島でもずくを食べたり、宮城島の製塩所を見学したり、伊計島の共同売店でお土産を買ったり。それぞれの島を訪れると、特産があり、海が広がり、昔ながらの風景に出会い、暮らしを垣間見られる。手軽に車で渡れるだけに、どの島であっても、くれぐれも「お邪魔します」の謙虚な気持ちを忘れずに訪れたい。
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