―沖縄の魅力に出会ったきっかけをお伺いできますか。
音楽です。沖縄民謡に取り憑かれたからです。その音楽ができた場所をもっと知りたいということで、沖縄に興味を持ちました。
初めて沖縄を訪れたのは、1990年です。22、23歳くらいの頃に、THE BOOMの3rdアルバム「JAPANESKA」(ジャパネスカ)」のジャケット撮影で行きました。「JAPANESKA」は、ロックに三味線や和太鼓などの日本の楽器を入れて、「西洋の人達には作れない日本発のロックとは何か」というテーマで作ったコンセプトアルバムです。僕が、細野晴臣さんや坂本龍一さんが沖縄民謡を取り入れた楽曲を発表されていたのを聴いていた影響もあり、沖縄に興味がありまして。撮影を、沖縄で行いたいとリクエストしました。
―初めての沖縄はいかがでしたか。
アルバムのコンセプトに沿って、那覇の方ではなく、自然が多く残っているやんばる(沖縄本島北部の森林地域)の方へ行きました。移動の車を降りたら、いきなり目の前を老人が水牛を連れて歩いている。水牛は一向に進まない。そこにはやんばるのゆったりとした時間が流れていて、まるで、「能」を見ているようでした。すごいところに来たなと。
当時は、デビューして間もない頃で、東京で忙しい日々を送っていました。忙しくて、車中でもほとんど寝ているような、そういう時間軸にいました。そんな中で沖縄を訪れ、車を降りたらまったく違う次元の世界が繰り広げられている。そこで魂を掴まれましたね、「こっち側へおいで」と誘われてるような感覚でした。それからは、「通う」という言葉を使っても良いほど、頻繁に行くようになりましたね。
沖縄には「人を受け入れるチカラ」がある。人の魅力に尽きると思うんですよね。
―沖縄の人々と触れ合うようになって、どのようなことを感じましたか。
よく沖縄の魅力を聞かれるんですが、僕はやっぱり人だと思うんですよ。あの人と飲みたい、あの人の音楽を聴きたいとか。沖縄の人々は、懐が広いし、受け入れる度量のキャパシティが広い。思わず甘えてしまいたくなるような、人を受け入れるチカラを持っていると感じています。
島の自然とか、島にあるコンテンツや芸能も素晴らしいです。それをつきつめていくと、それを生み出す人の魅力に尽きると思うんですよね。歌も人から生まれるわけですし、人と自然と社会の中から芸能が生まれてくる。
「癒される」なんて言葉がよく使われますが、人々との触れ合いで感じるのはそういうところです。
―なるほど。その沖縄の人の魅力を、初めての方でも実感できる場所はありますか。
僕がオススメするのは民謡酒場です。主に那覇や沖縄市、北部にもあります。
民謡のプロの歌手の方がお店にいらっしゃって、30分とか1時間に1回、ショーをやるんですね。民謡の生演奏を聴くことができる場所は他にもありますが、民謡酒場は地元の常連さんも通っていらっしゃるので、沖縄の人たちと触れ合うことができます。歌手の方やお店の人達とも交流できますし。
みなさん受け入れてくれる人達ですから、「東京から来ました」なんて言うと、一緒に喜んで飲んでくれたり、色々な話を聞かせてくれる。民謡酒場は、沖縄の懐へ続く扉、窓のひとつと言えるかもしれません。
初めて聴いたのに「心の原風景」を思い出させる。沖縄民謡には不思議な魅力があります。
―今回サウンドブックを監修していただきました。風景を見ながら音楽を聴くことで、より沖縄の雰囲気が感じられる内容ですね。
色々な景色を頭の中に思い浮かべていただけるように心がけました。沖縄の民謡には、訪れたことがない方でも、どこか自分の記憶がくすぐられるような感覚があります。忘れている原風景があるかもという期待が持てるような、不思議なチカラがある。今回の4曲の監修では、そのチカラを意識して、沖縄に「誘う」ようなアレンジを行いました。あの日のあの空を思い出したり、友達と歩いた川べりや、初めて泣いた日などを思い出したり。その人その人の記憶を呼び覚ます、「心の原風景」というようなものを思い出してもらいたいです。
―楽曲から普遍的なメッセージを感じました。沖縄の音楽に何か理由があるのでしょうか。
沖縄の文化は孤立して発展したのではなく、中国や大和(日本)、アメリカと関係することによってお互い影響を受け合い、独特の文化として発展してきましたが、普遍的に存在していた、神さまや先祖との交流、死んだ人への敬いなどが、いまだに1年の生活サイクルの中心に組み込まれている。それは誰かがこしらえたシステムとは違い、沖縄の人たちの中から自然に形作られてきたもの。我々の生活、景色の中には昔はあったはずなのに、無くしてしまったものがこの島には残っている。何か自分たちの遺伝子の中にある記憶が呼び覚まされるのは、そこに大きな理由があると思います。
―だから様々な人の心に訴えるものがあるのですね。沖縄民謡の魅力は他にもありますか。また、今回”Okinawan Sounds"を作るにあたり、モチーフとした民謡楽曲があれば教えてください。
沖縄民謡を構成する全てが美しく、興味深いです。三線という楽器の音色と、沖縄独特の音階。歌詞を紡ぐその言葉の美しさ。そして、その歌い方や発声の独特さと、素晴らしい要素に溢れています。また、歌われている内容も魅力の1つ。歌詞の内容を調べて行くと、どんな時代であっても、庶民の身の丈の生活、風俗を彼らの目線で歌い上げてきた、当時の人々の「思い」が見えてくるんです。これは素晴らしいことだと思います。現在では民謡で歌われる「島言葉」を話す人が減ってきています。その危機を食い止めるために何ができるか? 思案しているところです。沖縄芸大で非常勤講師をしていることもあり、海外から視察に来る人たちとも交流の機会があります。沖縄の芸能を紹介すると、非常に喜んでもらえます。お世辞とかではなく、国籍問わず喜んでらっしゃる姿を間近で見ると、やっぱり沖縄という島々の魅力は僕が思っている以上に力を持っていると思いますよ。音楽にもそれが凝縮されていると思います。沖縄といっても沖縄本島だけでなく宮古島や八重山諸島をはじめ、たくさんの島々があり、それぞれに特徴があります。4つの曲を選ぶにあたり、沖縄本島を代表する2曲、八重山の「恋ぬ花」と、宮古を代表する「伊良部トーガニー」を選びました。地域の違いを感じていただけたらと思います。
人間が人間らしい姿を取り戻せる。また頑張るぞと思える。そういう場所。
―Be.Okinawaは「本来の自分を取り戻せる島」をコンセプトにしています。このコンセプトについてどのように思いますか。
僕らは、逃れられないシステムの中に生きてます。システムにどう自分を当て込むか、というのが現代社会。動物として生まれて、幸せを求めたり、家族を作ることを求めたりする。それが、生き物としての本来の姿だと思います。どう充実して生きて行くかということを、毎日追われて暮らしている日々の中では実感できない。最初のやんばるの体験とも被るのですが、沖縄では、人間が人間らしい姿を取り戻せる感覚があります。沖縄を何度も訪れている方は、那覇空港に着くとホッとすると思います。なぜかリラックスするし、沖縄に帰ってきたみたいな気持ちにもなれる。いつも「めんそーれ」と言われるような、ウェルカムな感じが沖縄にはあります。「俺って本当はこういう人間だよな」とか、「私ってこういうふうに生きたいんだよな」「こういう夢があるんだよな」と思い出させてくれる。これだけ何度も訪れるリピーターがいるのも、きっとそういうところを魅力に感じられているのだと思います。英気を養い、本来の自分と向き合って、そして笑顔を取り戻す。また、自分のシステムに帰って「頑張るぞ」と思える。そういう場所だと思います。
―沖縄が「本来の自分を取り戻せる」のは、何故だと思われますか。
1つの形容詞がつけられないほど、多様な彩りと深さ、コンテンツの多さが大きな理由だと思いますね。沖縄好きの人が同じタイプかというと、そうでは無くって。ダイビング一筋な方もいらっしゃるし、お酒が好きで沖縄で泡盛をたくさん飲みたい、美味しいものを食べたいという人もいるし、自然が大好きで探索するのが好きだという人もいるし、色々な人が訪れるんですね。僕は音楽家ですから、音楽を求めて行く。小さい島でありながら、様々な目的を持った人々を受け入れてくれる島だと思うんですね。沖縄は、他の土地にはない稀有な場所だと思います。
宮沢 和史 Kazufumi Miyazawa
1966年山梨県甲府市生まれ。THE BOOMのボーカリストとして1989年にデビュー。代表曲のひとつである「島唄」をはじめ、沖縄の音楽を取り入れた楽曲を多数発表。沖縄出身だとよく間違えられるほど、沖縄と深く関わりのあるアーティストとして知られる。